クランクケースを分割したので、再利用しない方がいいオイルシールやベアリングなどの状態を確認します。また、再利用するために加工が必要なエンジン シリンダーやピストン、ギヤシフトフォーク、ステーター(発電するためのコイル)の状態を確認します。
使用する主なツール


メンテナンス手順
Step 1 : 再利用しないパーツを確認する
サービスマニュアルにて、多くのオイルシールは新品交換することを指定されています。実際問題として、取り外したオイルシールは硬化してリップ部分(オイルシールの内側部分)の動きが渋くなっていたり、リップ部分が変形していることが多いです。また、オイルシールはそんなに高価なパーツではありませんので、クランクケース内のすべてのオイルシールは再利用せずに新品に交換します。
ベアリングのインナーレース(内側)部分を手で回してみてゴリゴリした感じがあったり、ベアリング表面が焼けている(具体的には金属部分が青黒く変色している)場合は、そのベアリングを新品に交換します。
なお、ベアリングのインナーレース部分にベアリングプーラーを引っ掛けてベアリングを抜き取った場合は、インナーレース部分のスラスト方向(べリング軸方向)に圧力が掛かってインナーレース部分が変形している可能性が高いため再利用しません。
クラッチフリクションディスクとクラッチプレートは、目視で焼け具合を確認し、ノギスで厚みを確認し、シックネスゲージで反り具合を確認します。もしこれらが焼け焦げて青黒く変色していたり、厚さが使用限度値以下だったり、反りが使用限度値以上の場合は新品に交換します。
参考までに、CRM250R(R)のサービスマニュアルでは、クラッチフリクションディスク厚さの使用限度が2.9mm、クラッチプレート歪みの使用限度が0.2mmと指定されています。
Step 2 : 再利用するために加工が必要なパーツを確認する
シリンダー内部表面に傷があるかどうかを確認します。このシリンダーは内部表面に引っかき傷(注:画像内の赤色破線部分)があります。浅い引っかき傷で、なおかつメッキシリンダーではない鋳鉄製シリンダーであれば、耐水ペーパーなどで修正することができます。
このシリンダーは結構深い引っかき傷があるため、もし再利用する場合は内燃機屋さんにボーリングを依頼し、社外品のオーバーサイズピストン(純正ピストンよりも若干外径が大きいピストン)を使用する必要があります。
ピストンの側面に、擦れた跡があります。ピストンは、ピストンとコンロッドを結合しているピストンピンを中心に振れながら上下運動しますので、ピストンの吸気口側と排気口側に擦り傷ができてしまいます。擦り傷が深くなっている部分(注:画像内の赤色破線部分)がある場合は、ピストンを新品に交換した方がいいかと思います。
ピストンの擦り傷が浅い場合は、耐水ペーパーで傷部分を平坦にすることで再利用します。
変速のためにトランスミッションのギヤを動かすギヤシフトフォークも、消耗が激しいパーツの一つです。
ギヤシフトフォークの先端部分(注:画像内の赤色破線部分)が磨り減ってくると、思うように変速できなくなったり、走行中に突然ニュートラルになるギヤ抜けなどのトラブルが発生しやすくなります。
トランスミッションを分割するのは結構手間がかかるため、エンジンオーバーホールの予算に余裕がある場合はギヤシフトフォークを新品に交換した方がいいかと思います。
なお、ギヤシフトフォークの先端部分があまり摩耗していない場合は、耐水ペーパーで摩耗部分を整えて(大きな段差がない状態にして)再利用します。
ステーター(発電するためのコイル)は、可動せずなおかつ他のパーツと擦れ合うこともないため、あまり故障することはありません。ただし、外部から力が加わったり異常発熱することでコイルの電線が切れてしまい、ステーターが故障することが時々生じます。
このステーターは何かに引っかかれた跡(注:画像内の赤色破線部分)があり、コイルの電線が切断されています。このステーターを再利用する場合は、半田ごてと半田で切断された電線を接続し、なおかつ漏電しないように電線に被覆を覆う修理が必要です。
次回の作業では、加工せずに再利用できるパーツを調べていきます。